人の波が行き交う同人誌即売会の会場。
賑やかなブースの並ぶ通路を歩きながら、
私はひとつの机の前で足を止めた。
そこに並んでいたのは、シンプルだけれど、
不思議と目を引く本だった。「新刊ですか?」
小さく声をかけると、
奥に座っていた作者らしき人が柔らかく微笑んだ。
「はい、今回の新作です。
よかったら手に取ってみてください。」
私はそっと手を伸ばし、本を開いた。
手作りならではの温もりが伝わってくる。
丁寧にレイアウトされた文章と、
物語の合間に描かれた挿絵。
あとがきには、制作の苦労や想いが綴られていた。
その言葉が、不思議と心に残り、
気づけば、お釣りを受け取り、本を大事に抱えていた。
家に帰り、机の上に並べた戦利品を見つめながら、
私はふと微笑んだ。「いい収穫だったな。」
この本との出会いが、
きっとまた新しい物語へとつながる気がする。