静かなホールのロビー。
受付のテーブルに整然と並べられたプログラム。
扉の向こうから聞こえてくる、控えめな話し声。
舞台袖では、小さな手が緊張したように指を組んでいる。
「大丈夫、いつも通りに弾けばいいよ。」
そう励まされた子どもは、そっと胸に手を当てる。
静かに明かりが落ち、司会のアナウンスが響く。
ピアノの前に座ると、会場のざわめきがすっと消えた。
深呼吸をして、そっと鍵盤に指を置く。
最初の一音。
ホールの空気が震え、静かに音楽が流れ始める。
澄んだ音、弾むリズムが、静かにホールを満たしていく。
最後の音が静かに消え、指先がそっと鍵盤から離れる。
数秒の沈黙のあと、ホールいっぱいに響く拍手。
安心感と心地よい達成感がその小さな胸に広がっていく。
ホールを出ると、子どもはプログラムをそっと見つめた。
「また、来年も弾きたいな。」
それは、ただの紙ではなく、
この日の音楽と気持ちをそっと閉じ込めた、
大切な記憶の一部だった。