旅先で手にした一枚のポストカード。
ホテルのロビーに並んだ色とりどりのカードの中から、
どこか懐かしい風景に心惹かれ、気づけばその一枚を手に取っていた。
手触りの良い厚紙に、夕暮れ時の港町が描かれている。
オレンジと紫が混じり合う空の下、小さな船がゆったりと波間に揺れ、
岸辺のカフェの灯りがほのかに滲んでいる。
まるで、遠い日の記憶がそっと呼び起こされるような光景だった。
「娘たちは元気にしているだろうか?」
そう考えながら、ポストカードの裏をそっと指でなぞると、
紙特有の温もりと滑らかさが、心地よく指に馴染んだ。
スマートフォンで簡単にメッセージを送れる時代だけれど、
このポストカードには、手書きだからこそ伝わる温もりがある。
老眼鏡をかけ、ひと文字ずつ丁寧に書き始める。
「孫たちは大きくなっただろうか?」「風邪など引いていないだろうか?」
そんな想いが言葉となり、余白を少しずつ埋めていく。
いつもなら照れくさくて伝えられないような言葉も、
不思議と素直に綴ることができる。
そっとポストに投函すると、カタンと小さな音が響いた。
その瞬間、心に温かな余韻が広がった。
それは、紙が生み出す小さな奇跡。
手のひらサイズの便りが、遠く離れた娘家族の元へと旅立つ。
やがて、受け取った人の心に、小さな灯をともすのだろう。